かやぶきの館といえば「手打ちそば」川島区門前にお住まいの一ノ瀬みど里さんの打つそばのファンは多く 遠方からも食べにいらっしゃいます。頼もしく竹を割ったようなみど里さん。仕事に対する思いを伺いました。
昔は、それぞれの家でそばを打っていました
本日はよろしくお願いします みど里さんはいつからそばを打ち始めましたか(伊藤)
ここ(かやぶきの館)が始まった頃ですね。きっかけは、「川島そばの会」に入っていまして、かやぶきの館がオープンする際に誘われたのが最初です。当時「そば処いわかがみ」のお師匠さんたちは、4〜5名のおばあさんたち。家には舅と姑、職場でも姑でしょ。厳しくて厳しくて、泣きました。皆さん家でそばを打っていましたから腕前はもうプロフェッショナル。私は最初は配膳からスタートでした。開発公社の頃は、席ももう少し広くてね。そのうち、粉を触らせてもらえるようになり、捏ねるところからやらせてもらえるようになりました。素人でしたので本当に1から。水回しはとても大事な工程で難しかったです。といっても丁寧に細かく教えていただくのではありませんでした。「見よう見まね」です。昔の方は、それぞれのお宅でそばを打っていましたから職人ですよ。
何年そば修行するとお客さまにお出しできるようになるものですか(山崎)
何年経てば打てるようになる、という目安はないと思います。私も全工程を一度に教わったのではなく、ひとつひとつの工程を何年もやりながら覚えていきました。徐々にできるようになって26年が経ち、やっと今に至るという感じです。
そばの出来映えはその日その日で違いますか(山崎)
そば粉の引き方にもよりますし、季節によっても違います。水加減も捏ねながら、手加減しながら。26年間ずっと同じそば粉を使っているので、微妙な違いは、手でわかりますね。そばは、最初の捏ねる段階が1番大事。ここでしっかり捏ねておかないとコシが出ません。茹でる時間は決まっているので、捏ねが全てです。

厳しくも温かいみど里さん お目当てのファンも多い
今の私があるのは、厳しかった先人のおかげです
みど里さんのやりがいとはなんでしょうか(伊藤)
ここで働かせてもらってお客さまにそばを提供できる。これが何よりの幸せですね。これもあの厳しかったお師匠さんたちのおかげです。ありがたいです。お客さまの反応を直接いただけることが勉強になりますね。先日とあるお客様に「ここは手打ちそばですか。機械ですか」と聞かれました。その方は、ここのそばが、とても細く揃っているので機械で切っているのだと思ったそうです。
それは素晴らしいエピソードです(山崎)
私もそれは自負しています。そばの細さが均一でないと、同じ時間で茹でても、ばらつきが出てしまいますから。あと「川島に入った途端、真っ白な畑が見えてきましたが、何の畑でしょう」と聞かれる事も多いです。以前は「そばの花」を店内に飾ったり、そばの実をディスプレイしていました。そばのことをお客さまに知っていただく事はとても大切ですね。
寒ざらしそばは初めての経験です
辰野町商工会青年部が山形村商工会青年部に協力していただき「寒ざらしそば」に挑戦しました(伊藤)
私も初めて関わらせていただきました。渡戸の根橋正美さんに教えていただきながら、蛇石の周辺に玄そばを沈める作業をしました。1ヶ月後に引き上げ、かやぶきの館の敷地内に広げました。時々かき混ぜては乾き具合をチェックしました。甘味と風味が増すということで出来上がりを楽しみにしています。

根橋正美さんに教えていただきながら

辰野町商工会青年部が特産化に向けてプロジェクトを始動しています!

かきませながら乾き具合をチェック
職人という概念が昔とは変わってきています
みど里さんは、他店のそばを食べに行くことはありますか(伊藤)
外食するときも、そばは食べに行かないですね。ここのそばが1番だと私は思っていますので。本当は色々なそばを食べ歩いて、勉強すればいいのだけれど。試行錯誤するのなら、ここのそばを極めていきたいと思っています。そばつゆも含めて、ここのそばが1番おいしいですから!
うちの子(竜清)の修行の状況はいかがでしょうか(伊藤)
私は教える立場ですが、竜清君は同じ職場の仲間。私たちの時代は、見て覚えろ。でしたので、粉も触らせてもらえなかった。例えば、昔は嫁姑の関係など家族も同じ。ですが、自分がされてきたことを今の若い人に押しつけても、時代が違いますからね。今の若い世代に受け入れられる教え方に変えていかなければと思います。
みど里さんは、そばに対しての信念を持ってらっしゃる。どんどん鍛えてやってください!(伊藤)
当然の事ですが、そばはすぐには上達はしません。最初の捏ねが1番大事と日々彼には言っています。職人堅気という言葉が伝わっているのかどうかはわかりませんが、そばを食べてみれば判断出来るかな。

みど里さんと竜清君コンビ
技術より仕事に対する姿勢の大切さを

小澤つやさんと竜清君コンビ
そばの本質を寄り添いながら伝える
ふたりの師匠を持つ 伊藤竜清君のコメント
みど里さんからは、まず仕事の基本(挨拶・掃除)から教わりました。1から順番でじっくりと取り組む事、1つの事柄に対して10考える事を教えていただきました。つやさんからは、そばの打ち方を全体的に教えていただき、全工程をひと通りご指導いただきながらアドバイスをもらいました。
みど里さんの今後のそばに対する思いをお聞かせください。(伊藤)
とにかく続けていく。きちんと味を守っていく。それが1番大事。新しいことをあれやこれや挑戦するのではなく、基本を忠実に継続する。これからもお客様に満足していただける「手打ちそば」を提供し続けていきたいと思います。

上伊那産のそば粉と横川渓谷の伏流水を使用したそば
風味が豊かでのど越しにこだわる

上質な川島産松茸をのせた贅沢な味「松茸そば」
※期間限定(10月頃)

みど里さんのアイデアから
生まれた「カレーそば」
お話をお聞きして
みど里さんにそばを伝授した師匠の息子さんが今でも「そば処いわかがみ」に来てくださるそうです。「お袋のそばを思い出す」と言ってくださるそう。職人魂はしっかりと受け継がれています。みど里さんは、やっぱりカッコいい! (インタビュー=伊藤 優/山崎里枝 撮影・編集・デザイン=山崎里枝)

この暖簾を守り続けてきた