151年の歴史を持つ川島小学校が2025年4月1日に廃止され、辰野西小学校と統合することが正式に決まりました。閉校記念式典の準備でお忙しい中、最後の校長となる牧野孝裕校長先生にお話を伺いました。
これほど地域の皆さんと深く関わっている学校は珍しい
校長先生はいつからこの小学校にいらっしゃるんですか
平成29年に教頭として川島小学校に赴任しました。その後何年か離れていましたが、令和4年に校長として戻ってまいりました。出身は飯田市です。教員生活はかれこれ32年になりますか。子供の頃はタクシー運転手になりたかったんですよ。ラジオを聞くのが好きでして、お客さまを乗せてラジオを流しながら運転するのが楽しそうだったので。そのうち教育に興味がわきはじめまして。高校の社会の先生がとてもユニークで魅力ある先生だったんです。「こんな先生になりたい」とますます思いは強くなりました。
先日は運動会を見させていただきました
前日が雨でしたので心配していましたが、最後の運動会に相応しく当日は晴れまして、無事執り行う事ができました。最後の運動会の記念に缶バッチを作りました。ミッションをクリアしたご褒美にバッチをプレゼントしました。大玉送りの大玉も竹枠で作られたものを継ぎはぎをしながら大切にしています。
この小学校が無くなってしまうのはとても残念です
これも時代の流れではあるとは思います。長野県教育委員会では、現在高校の再編成を推し進めていますね。一番の要因は「少子化」ですが、その中でも子どもたちが生き生きと学習できる環境を整えるようにということです。この後も誰もが集える場所になって欲しいですね。
ここはとてもオープンな小学校です。一般的に家族に小学生がいないと学校に来ることはないですし、ご自分が卒業した学校もなかなか行きませんよね。川島小学校は地域の皆さんが、気軽に来てくださるので本当にありがたいです。川島区は様々な個性溢れる方々がいらっしゃいます。私は社会科の専門でしたので、社会とは地域の方々と関わる事で見えて来る世界があり、助けたり助けられたり。ここ川島区はその連携の極地ではないかと思うのです。農家の方に色々教えていただいたり、山林の事、野生動物の事、植物の事、その道の先生がいらっしゃいます。資源回収も小澤清さんはじめ、皆さんに協力していただきました。陶芸教室も荒井正輝さんが熱意を持って立ち上げてくださいました。この学校は地域ボランティアの皆さんに支えられてここまで来ました。
川島小学校の校章は何がモチーフになっていますか
これは「いわかがみ」がデザインされています。三級の滝のあたりには、群生しています。ここ川島小学校にも5月にはロータリーの松の木の下に「いわかがみ」が咲いていたんですよ。
いわかがみ
岩場に生えることと、光沢のある丸い葉を鏡(古代の銅鏡)に見立てた名前。林の下草などとして岩場以外に生えることも多い。花言葉は「忠実」。物を映し出す鏡に見立てられていることから、「物事に忠実」をイメージした。また下向きにつつましやかに咲く花の印象をあらわした。
「苦楽しい」という言葉があります
以前勤めていた学校で、教育実習生に「苦楽しい」という言葉を実習生に伝える同僚がいました。一生懸命取り組めば、苦しい出来事も楽しくなるという事です。苦しい苦しいと思いながらも、やり続けていくと、子供が必ず「成長」という形で返してくれる、それが教職の醍醐味ではないかと思います。川島小学校は、生徒数が少ないので、その子その子の反応を肌で感じます。絶対にわかります。今は先生のなり手が無いですが、人ととことん関われる職業は教職ですね。これは昭和41年から3年間、川島小学校で教鞭をとられていた渡邊義夫先生からの手紙です。大学を出て初めての赴任先が川島小学校でした。教え子から閉校のことを聞き駆けつけてくださいました。今は長野市の川中島にいらっしゃって、今でも川島の夢を見るそうです。卒業生も訪ねてきます。それもある日突然に!(笑)ありがたいですね。きっと今後、訪ねてくる卒業生が増えていくでしょうね。
和を以て貴しと為す
校長先生、あの書は素晴らしいですね
聖徳太子の言葉で「みんなが相手を尊重しあい、認めあって協調することがなによりも尊いものだ」という意味です。ここ川島区、川島小学校には大切な言葉だと思います。「和」。なかなか実践するということは難しいですが、常に心の中にあります。
川島区の強みがまさに「和」です
ここに赴任が決まった時、下見に来た日のことは忘れられません。国道から入ると景色がガラッと変わります。古き良き時代がまだ残っているという懐かしさが川島にはあります。
寺に大小あれど住持に大小なし
「寺に大小あれど住持に大小なし」という言葉があります。これは、お寺には大きな立派な寺もあれば、町の片隅にひっそり佇むお寺もあります。住持に大小なしというのは、お坊さんのことで、必ずしも大きなお寺の住職が徳が高いというわけではなく、小さなお寺でも、日々、修行に励み、真面目に仏の道を窮めようと努力しているお坊さんは、大きなお寺の住職さんにも負けないという意味です。まさに川島小学校のことを表わしていると私は思います。この額はずっと大切に飾らせていただいていますが、下伊那郡豊丘村の毛涯章平先生が「残香」と揮毫され来校の際に書き残してくださったそうです。小さい学校だけれども誇りを持って生徒と向き合おう。教員としての任務を全うしようという思いが込められています。逆に大きい学校にもいました。飯田市立伊賀良小学校です。全校で1,000人。大勢ですと様々な課題も多いですが、学校にパワーがあります。メリット、デメリットがあるのは当たり前でして、それをどう子どもたちに活かすかが大事だと私は思います。
最後に今までの教員人生を振り返って一言お願いします
人とつながることでとても豊かな時間を過ごさせていただきました。希望の持てる閉校にむけて、私の経験が少しでもお役に立てれば嬉しいです。教師生活32年の集大成がここ川島小学校であることは、とても幸せです。
お話をお聞きして
実はお話をお聞きするタイミングを何年も前から考えていました。この号だけでは川島小学校は語れません。温かい校長室には151年の歴史が詰まっていました。サッカー観戦がご趣味でいらっしゃる牧野校長先生。閉校までの間、完全燃焼したいとおっしゃってました。ありがとうございました。(インタビュー=伊藤 優 撮影・編集・デザイン=山崎里枝)