地域創生

「月のもり」とともに過ごした16年 市川直美さん

辰野町川島区の1番奥、源上耕地にある「農家民宿 月のもり」今年の3月いっぱいで廃業されるいうことを SNSで知り、どうしてもお話をお聞きしたくなりました。この日は雪。リビングの窓は雪の額縁のようでした。

源上全体が ひとつの家族のようです

本日はよろしくお願いします 一歩足を踏み入れると空気が違いますね(伊藤)

皆さんそうおっしゃいます。それは、ここ源上という気の流れと言いますか、環境が大きいと思います。

 川島にきて最初は渡戸に3年住んでいました。地域の人に自然に受け入れていただけたのも、まあお酒好きということは大きかったなと。(笑)コロナ禍でお酒を飲む機会はだいぶ減ってしまったけれど、地域の集まりはお酒がつきものでしたよね。渡戸は今でも実家だと思っています。その後、源上に移ったんですけど、ここはケミカルなものが少ないです。それをずっと求めていました。電線がうちまででこの先にはないんです。用水路はダムの水半分、山の湧水が半分の清水です。夜は夜で外灯が無いので真っ暗!天の川を毎晩見ることが出来ます。「何もない」ということが、ここではメイン。でも自分で見つけることが出来る場所だと思います。宿を始めたばかりの頃は、じゃらんネットに「周辺にはコンビニ、自動販売機、ガソリンスタンドはありません」と載せたんです。これが逆にウケて(笑)どんなところ?って皆さん興味が沸いたのでしょうね。たまに都会からピンヒール履いて「農業体験したいです〜」という方もいらっしゃいましたが(笑)

左利きのネコのランギ君 奥にはノルウェー製の薪ストーブが

ここは10世帯も無いので、まるでひとつの家族のようですね。移り住んだ頃、月1回の会合で必ずケンカが始まって(笑)周りも「もっとやれ〜!」と煽る。それがおかしくておかしくて!でも次の日には何事もなかったようにケロッとしてる。腹にわだかまりがあるよりは、吐き出してスッキリ。人間同士の付き合いを学ばせてもらいました。当初、私をよそ者として見ていた方も、次第に頼りにしてくださって…。ありがたいです。

ゲストルームはバリ島の竹製のベッドが置かれている

「月のもり」さんのマークが玉ねぎですね。それはなぜですか。(山崎)

玉ねぎが三日月に似ているなあ。という発想からです。それと、私が宿を始めた当初「お肉やお魚はお出ししません。野菜がメインのお食事です」とやってきました。実は、お客さまが普段食べている市販の野菜の中で、1番違いを感じてくださるのが、玉ねぎなんです。味・硬さなど、普段、玉ねぎを食べないお子さんが、ここの玉ねぎの天ぷらを、ご両親の分まで食べてしまったり。苦い、辛いという一般的な味覚が、ほぼありません。いくら切っても涙が出ません。化学肥料や農薬だけではない何かが作用しているとは思いますね。  リビングの窓は西向きなので、冬の間は窓のど真ん中へ月が沈んでいきます。満月の夜は目の前の山が雪で白いと、満月の光が雪に乱反射し、その光が部屋の中に入ってきて、眩しくて夜中に目が覚めてしまう時もあります。「宇宙ってこんなに近かったんだ!」って。月の周期は、女性の生理や出産に影響がありますが、実は野菜も発芽などの時期に関係があります。太陽の光はもちろん大事ですが、それ以上に月は、私たち人類の身近な存在だと思いますね。

どんな方法であれ農業で1番大切なのは「作る」こと

今の日本の農業に疑問を感じるのですが。(伊藤)

農業というのは、何が正しくて何が違うのかが、無い世界だと思うのです。例えば、お米を作ろうとする時に「農薬や化学肥料は使ってはだめですよ。除草剤もだめですよ」というのは「お米を作るな」と言っていると同じ。それよりも、頼りながらでも、お米を作る方がいいと思うのです。川島区にも私を含め「絶対使いません」と農業をされている方がいらっしゃる。それはそれでいいと私は思います。私は東京を離れると決心した時に、自分の主食は自分で作ろうと決めました。農薬や化学肥料、除草剤を使わないことによって、生物多様性が保たれていた。ここ数年で、かつていた生き物が、ものすごい勢いでいなくなっています。田んぼにオタマジャクシさえいないです。住めない成分が入ってしまっている。前だったら当たり前にいた生き物がいない現実。観光で川島を訪れた方が、農村を感じてくださっていますが、実は生態系はとても変化しています。この環境を少しでも和らげないと、人間が絶えるのだと私は思っていて。絶えさせないためには、一つ一つの環境の中に、いるべき生き物がいるべき場所にいるべき。労働を楽にするために、除草剤などが改良されて、成分が強くなっているのかもしれません。うちの田んぼには、絶滅危惧種もまだたくさんいてくれているんですけど、この環境を維持していくのが、私のミッションだと思います。

リビングにあるテーブルには電磁波対策グッズ

生物多様性
様々な生きものが、異なる環境で自分たちの生きる場所を見つけ、互いに違いを活かしながら、つながり調和していること。

窓辺には色々な豆類のストックが

無理をせず守る 豊かな暮らしのために

以前いただいたランチが忘れられません。玉ねぎの皮の出汁が驚きでした。心身ともに、浄化されたような気がしました。(宮原)

畑から採って、そのまま料理、味付けもシンプルです。人間は本能的に、口にした瞬間、身体によいものがわかると思います。

4月からは、どんな生活になりますか(山崎)

二足の草鞋でやってきましたが、これからは農業を中心にやっていきます。まずは、体をメンテナンスしながら…。実は、孫が生まれまして、その孫が私の作ったサツマイモを無心に食べてくれるのですよ。10月に採れたトマトを使ったラタトゥイユもモリモリと。とにかくこの子の食べるものを作らなければならないと思いました。「ばあちゃん頑張る!」です。サツマイモもトマトも時期がずれていますので「今まで通り」が通用しません。臨機応変にこちらが自然に合わせていかないと。

ゲストルームから望むウッドデッキこの日は一面雪景色

時間がとても尊く感じる場所

ここを訪れると何か考えさせられます。かやぶきの館でも直美さんの野菜をご提供させてください。(宮原)

ぜひお願いします!軽トラに採れたての野菜を積んで、かやぶきの館で販売もできればいいなあ。と思います。

客室にもご案内の冊子を置きましょう。(伊藤)

それはうれしいです。この野菜に出会えた奇跡。口に出来る奇跡。尊いことです。皆さんにお伝えできたらと思います。

お話をお聞きして

人間として究極の幸せとは何か。実はとてもシンプルな日々の繰り返しで、他愛のないものだと思いました。源上の話から農業、宇宙の話まで、市川直美さんとの時間は壮大な世界が広がりました。ありがとうございました。 (インタビュー=伊藤 優/宮原陽子/山崎里枝 撮影・編集・デザイン=山崎里枝)

純国産の鶏、岡崎おうはん
卵も糞も大活躍です

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