「辰野町は自給自足している人がとても多い!」僕が辰野町に移住して驚いたことの一つです。実際、辰野町はおよそ8割が、自分が食べる分の作物を栽培している自家栽培農家で、この水準は全国的にもかなり特殊だそう。自給自足することで心身の健康はもちろん、限られた農家だけでなく、地域で暮らす一人ひとりが農に関わることで、川島をはじめ辰野町の農村風景は今も美しく残っているのだと感じます。
しかし、国内や世界に目を向ければ、異常気象や人口増加による水不足、農地の減少などで、2030年以降、食糧危機が世界中で起きる危険性が出てきているそう。食料自給率が40%の日本は、海外で食糧不足がおきた場合、暮らすために必要な食材を輸入できなくなり、食料問題がおきる可能性があるとも。自給自足は単に心身にとって良いだけでなく、今後生きていく上で必要なサバイバル能力と言えるかもしれません。
辰野町ではじまった「農や食の未来を考える」農水省事業
そんな中、農水省がはじめた「ニッポンフードシフト」という国民運動プロジェクト。将来的にますます重要になる農や食について、消費者も農家も行政もみんなで考え、対話し、行動していく農業活性化事業です。
具体的には、全国10地域と連携し、農業や食への関心を高めるイベントや取り組みを行うというもの。今回、このニッポンフードシフトのパートナー地域として辰野町を選んでもらうことになりました! プロジェクト名は「もぐもぐファームラボ」。大学生、農家、行政、企業、研究者など多様な立場にある人たちが、辰野町をはじめとした地域と連携して、農や食の未来を考え、より良くしていく学びと実践のコミュニティです。
10月・11月に辰野町でニッポンフードシフトのフィールドワーク(学び合宿)を行いました。参加者は、信州大学生や、学習院大学生など学生のほか、農水省の若手職員など総勢30人。今回の地域新聞では、そんなニッポンフードシフトの合宿の様子をご紹介するとともに、参加した学生が発見した川島の食や農の魅力に迫ります。
「私は今まで何を食べてきたんだろう?」本物の食に目覚める20代
まず最初に、どんな合宿だったのでしょうか? 10月の合宿の流れをピックアップして少しご紹介します。
合宿のスタートは、薬膳レストラン・ひなたぼっこでの里山薬膳料理から。中村智子さんの手作り野菜で作られた優しい味わいの料理の数々に、普段は外食ばかりのある女性は「今まで私は何を食べてきたんだろう。このご飯を食べられただけで辰野に来てよかった…」と静かに感動の声をもらしていました。
つづいて、源上耕地で農家民宿や有機農業を営む、月のもりの市川さんのもとへ。以前、本紙でも取り上げた「オーガニックビレッジ構想」や、自然と共生した暮らしについて伺いました。「自分でなんでも手作りする市川さんの生き方を聞いて、自分もDIYライフに憧れた!」と、都市部では身につかない、生きる力への憧れの声が聞かれました。
合宿の翌日には、自然栽培米農家である、やまあいの地の飯澤清成さんのもとで、稲刈り収穫体験に参加。自然栽培という環境に負荷をかけないユニークな農法について学んだのち、実際に稲刈りにも挑戦。「稲に触れたのも、鎌を持って手刈りしたのも初めての体験で、一生忘れない貴重な体験になった」と、農村だからこそできる五感を使った体験に大満足の様子でした。
お昼には、農民家ふぇのあずかぼで、動物性食材を使わずに野菜を中心に手作りされたビーガンランチ。ランチ後は、あずかぼで使われていた、ゆがふ農園・山浦泰さんの野菜の収穫体験へ。自分たちが食べた野菜がどのように育っているのか自分の手で学びながら、山浦さんが20代で農家を志したストーリーに皆さん興味津々。「農家は遠い存在だと思っていたけど、自分と近い年齢の山浦さんと対話する中で、農業が身近に感じました」と、農業を自分ごとで捉えるようになった人も。
農業合宿から生まれた12個の事業アイデア
今回の合宿の特徴は、学びで終わらずに、実験・実践すること。農家さんからの学びをもとに、自分なりに取り組みたい農や食に関するテーマを決めて、そのテーマを体現する「事業アイデア」をつくっていきます。様々な農業体験を経て、農や食にまつわる12個の事業アイデアのタネが誕生! 今回はそのいくつかをご紹介します。
どれも等身大の疑問や思いから生まれた自分ごとのアイデアばかりでした。
もっと農業に関わりたい! 農家さんのためになりたい!
→農業お手伝いをしたい人と人手が欲しい農家さんをつなげる
マッチングサービス「ファームベント」
不健康でお金もかかるのに現代人が外食に頼ってしまうのはなぜ?
もっと身も心も満たされる手作り料理を食べたい!
→手料理を楽しく簡単にできる、手料理支援サービス
なぜ規格外野菜は捨てられちゃうの? フードロスを無くしたい。
命ある野菜を無駄にしたくない。
→規格外野菜でも美味しいことを伝えるための「規格外野菜ピザ」を作りたい!
自分では何も作れないことに気づいた。既製品に囲まれていると壊れたら捨てるだけで愛着を持てない。自分で手作りして愛着を持てる生活がしたい
→生活に必要なものを手作りできる、「暮らしのDIYキット」「自給自足キャンプ」
田舎にこそ、日本文化の真髄がある
参加した大学生に川島でのフィールドワークの感想を聞いてみると、こんな生き生きとした感想が!
「生きる力、生命力のようなものを川島の人から感じた」、「里山に生きる人はなんでも自分で作ってしまう、創造力豊かな暮らしのクリエイターだった」、「畑の上で寝転ぶってこんなに気持ちいいなんて知らなかった」、「ずっと都市で育ってきて田舎を知らなかったけれど、広大な自然・ 新鮮な食・ おもてなし文化・先人たちの知恵など、
田舎にこそ日本文化の真髄があると思った」。
都市部は、お金さえあればなんでも買えるけれど、逆にいえばお金がなければ何も得られません。畑で野菜を作って自活するというようなことは基本的には難しく、資本主義というシステムに依存しなければ生きていけません。逆に川島のような田舎には、自分の力で生きていくことができる自由さ、人工的なシステムの代わりに、自然からの恵みを得られるという豊かさがあります。特にこれから食の希少性が高まっていくほど、農村の価値は再認識されていくでしょう。僕自身、今回のような都市農村交流で、田舎が持っている価値を再認識することができました。
この事業はまだまだ継続してきます。2022年2月には、事業アイデアの成果発表会が行われる予定です。最終的にどんなアイデアが発表されるのか、今後ももぐもぐファームラボの取り組みをお伝えします。
本事業に協力していただいている川島のみなさんへ
根橋正美さんや川島振興会の皆さん、農家民宿月のもりの市川直美さん、薬膳レストランひなたぼっこの中村智子さん、木の子クラブ菊地ユミさん、やまあいの地の飯澤清成さん、かやぶきの館の皆さん、キッチンカーそば屋「一升」一ノ瀬正太さん、ゲストハウスアトリエ和音の田中友美さん、古着屋Oto&の金井一記さん、ゆがふ農園の山浦泰さん、農民家ふぇあずかぼの山浦祐貴さん、そのほかこの企画に力を貸してくださった皆さん、本当にありがとうございました!
文=地域おこし協力隊 北埜航太