農業

人と環境にやさしい自然栽培で、休耕田を再生。 みんなでつくる「小里米」。めざすは人とお金が循環した地域づくり。

青い空と青々とした田んぼ。川島の農道を車で走るのが最高に気持ち良い季節になりました。川島に行くたびに「あー、気持ちいいなあ!」。1日の幸福度が一気に高まる瞬間です(笑)。川島に移住者が多い理由の一つでもある、この美しい里山風景。地元の営農組合の皆さんをはじめ、多くの方の努力によって保たれています。ただ、ときおり耳にするのは「今はいいけれど、5年後、10年後もこれを維持していくのは大変だな…」。原因は営農組合の高齢化や、人手不足。そんな中、耕作放棄地を「自然栽培」というユニークな農法で再生。さらにそれをブランド米にすることで活動資金も稼いでいく持続可能な里山づくりのモデルに取り組む、飯澤清成さんに出会います。自然栽培とは? どうやって川島ブランドをつくっていくの? 川島という里山だからこそできる持続可能なビジネスモデルと、持続可能な地域づくりを取材しました。

飯澤清成さん

お米が10キロ9,000円でも売れる理由

まずは気になる「自然栽培」。飯澤さん曰く、自然栽培とは、無肥料・無農薬でその圃場の土の中にいる微生物や菌を生かした農法のこと。農薬や肥料を使わない分、作業の効率や収量は少なめ。その代わり、自然に負荷をかけず、環境に優しい永続的な農法と言われます。また、安心安全な作物を求める消費者にも人気で、飯澤さんがつくるお米、「小里米」は通常の3倍の価格でもわざわざ買ってくれるのだとか。「自然栽培を始めて3年目の令和2年産のお米は10キロ9,000円で完売することができました」。9,000円…!どんなお米なのか気になります。

農薬を使わないため田んぼには豊かな生態系が残ります

東京は地方に食べさせてもらっている街だと気づいた

なぜそこまでの金額でも売れるのか気になる気持ちもありますが、お金の話は一旦脇に…(笑)。そもそも飯澤さんは東京の暮らしを卒業して、なぜUターンを選んだのでしょうか?川島生まれの飯澤さんは辰野高校の卒業を機に、東京へ。経理の専門学校を経て、大手ゲーム会社の経理部門に就職します。約20年間で経理部長まで歴任し、全社の財務管理から経営企画まで経験。その後、経理のスキルを活かして独立し、仲間とともに、フリーペーパー会社や民泊運営会社、飲食店、コールセンターなど複数の会社の企業再生を実現します。転機になったのは、2011年の東日本大震災。コンビニやスーパーの棚から食べ物がなくなったとき「東京は地方に食べさせてもらってる街だと感じたんだ。日本の中枢と言われるけど、地方に支えられて生活が成り立っているんだと。そして、お金があっても買えないものが地元の川島にはたくさんあったと気づいたよ」。川島に戻って暮らしを始めることを決意した瞬間でした。

昔ながらの手植え

3年連続受賞。8割が東京のお客さん

とは言っても、やはり仕事の問題があり、最初は企業再生の仕事を続けながら、東京と川島を行き来する暮らしからのスタート。地元に帰ると貴重な若手世代ということで、地域の営農組合で農作業を手伝うことに。そこで目の当たりにしたのは農薬を使って効率的に生産する現代農業でした。「農薬は今の農業を支えてきた有り難いものだけど、散布する時に体内に入れてはいけない農薬を人が食べる野菜に使うというのは抵抗はあったね」。 できるだけ農薬を使わない農法がないものかと調べる中で見つけたのが、「奇跡のりんご」で有名な木村秋則さんの自然栽培でした。「自然栽培は日本でもまだ少ないし、ほとんど人工物のない自然に恵まれた川島で自然栽培をすれば、川島ブランドの農作物として差別化もできるんじゃないかと考えたんだ」。 スタンダードな農法ではないため、最初は周囲の人には理解されませんでしたが、まずは実験的に2a(200㎡)やってみることに。研究熱心な飯澤さんの性分もあり、半年後、無事田んぼに立派に稲穂が実ります。さらに試しに、JA農産物品評会に応募したところ、いきなり銅賞。「いけるかもしれない!」と自然栽培の可能性を直感した飯澤さん、2019年には一気に田んぼを30aに拡大。その年のお米は、なんとJA農産物品評会での金賞に加えて、米・食味分析鑑定コンクールという国際大会で認定米というダブル受賞。さらに2020年には、農薬と化学肥料の厳しい制限や米の専門家の食味評価もクリアしたお米だけが認定される「長野県原産地呼称管理制度」にも認定。これでもかという実績を3年間で達成します。

手づくりのチェーン除草機

ここで暮らし続けたいから、お米作りを持続可能な事業にしたい

なぜ10キロ9,000円という決して安くはない金額でも飯澤さんのお米は人気なのでしょうか? 「お米は有り余るほど売られているので、わざわざ選んでもらえる理由づくりがとにかく大事」だと飯澤さん。お米自体の品質はもちろんのこと、川島という環境も大きな魅力と言います。「やっぱりこの川島谷でつくるからこそ、求めてくれるお客さんがいると感じるね。地域のみんなで創り上げる美しい里山景観や、国有林から流れる混じり気のない清流、他から犯されることのない自然豊かな山間という立地で、自然栽培するからこそ、健康志向や自然派のお客さんに買っていただけると思います」。 そんな飯澤さん、単なる生業としてではなく、お米作りを通じて川島の活性化に繋げたいと考えています。「東京から帰ってきてこの里山の良さに気づいたんだ。こんなに素晴らしい場所は他にないって。これから先もここに暮らし続けたい。先輩たちが大切に守ってきた川島をなんとか次の世代につなげていきたい」。そのために実現したいのが事業化です。 「地域の活性化とは、人とお金の循環だと私は思っています。その両方が地域に循環すれば、川島を手入れする人手も、雇用も生み出せます。頑張りがきちんとお金という対価に還元されれば、働くことも楽しいし、生活としても成り立つからね」。 人手が減っていくこれからの川島。飯澤さんのように事業としてお米づくりができれば、里山の景観も自然環境も守られ、雇用も生み出せるので、人手も確保できるかもしれない。そんな未来が見えてきました。

回転式除草機

お米作りは仲間づくり。いつでも帰れる居場所を川島に

だからこそ多様な人と一緒にお米作りを進めたいと飯澤さん。「田んぼって、コミュニティ、居場所でもあると思うんです。みんなで力を合わせてお米づくりをすれば、この川島を活性化する仲間も増えるし、仲間ができれば、川島がいつでも帰ってこられる、もう一つの田舎づくりになる。辛いことがあっても、ただいまと言って帰ってこられる場所にしていきたいです」5月30日には田植えイベントを開催し、米作りに価値を見出し共感した人たちが集まりました。(表紙写真)10月には稲刈りイベントも行う予定だそう。  Let’s米米米倶楽部に興味を持たれた方、川島に田んぼを持たれていて、貸してもいいという方は、ぜひ連絡してみてください。飯澤清成さん tel.090-5453-0066 iizawa@yamaainochi.jp(文・写真=北埜航太)

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