文化

みんなで建てる御柱。 世代、時代を超えて受け継がれるもの

第204回 御柱祭を取材して感じたこととその記録(後編)

お祭りがない土地で生まれた自分にとって、御柱祭は衝撃や発見の連続でした。前回では、御柱祭の山出しまでの様子をお届けしました。今回は、建て御柱についてご紹介したいと思います。

  建て御柱とは、山出しした御柱を住民総出で曳き、その柱を最後に宮木諏訪神社に建てて祀る神事。御柱祭のクライマックスです。

特徴的なのは、御柱を建てる際に、選ばれた乗り手が御柱の先端にまたがったまま、建てられるという伝統。20mはあろうかという御柱なので、落下すれば命はありません。乗り手は限られた人しかなることができない名誉な役でもあります。例年であれば、何人もの人が乗り手になるそうですが、今年はコロナ対策もあって渡戸耕地の根橋竜矢さん、根橋仁さんなど3名が乗り手に。

 まずは乗り手の体を紐で結びつけ、柱と人が一つになります。「しっかり結びつけないと落ちるからな」と先輩から愛ある厳しいアドバイスも。そして御柱をいよいよ建てるという瞬間。緊張と覚悟が入り混じった勇ましい表情から、見ている僕も思わず力が入ります。

「よいしょ!よいしょ!」という掛け声とともにゆっくりと立ち上がっていく御柱。昔は人力で引き上げていたといいますが、現代ではクレーン車を使って行います。時おり、地上から「紐が足に引っかかってるぞ」「もっと声出せ」など声がかかります。乗り手と地上とでコミュニケーションを取りながら御柱が建っていきます。引き上げているのはクレーンですが、この場にいるみんなの目に見えない力が合わさって、御柱が立ち上がっていくよう。

直立すると、用意していたくす玉が開かれ、コロナ終息と平和祈願のメッセージが。その後もしばらくは声を発して、建て御柱を祝い続けます。そして、1時間以上に及ぶ建て御柱を経て、地上に戻ってきた3人は、ホッとした安堵の表情を浮かべていました。
なぜ乗り手をやろうと思ったのか、何百年も続く祭りが地元にあるというのはどういう感覚なのでしょうか。「小さい時からずっと先輩たちを見てきているので、御柱祭は特別なものというよりもそこにあると言う感覚かな。好き嫌いとかそういう気持ちを超えたものですね」

 そんな根橋竜矢さんの勇姿を、お子さんはじっと見つめ続けていました。こうして、御柱祭の伝統は7年後に繋がっていくのかもしれません。

何百年も続く祭りの役を引き受けて、歴史の中に身を投じる。多くの人の注目が集まる中で、御柱の乗り手という困難に挑戦する。7年に一度、今回で204回目。伝統を絶やさない意志。一個人という小さな存在を超えて、地域コミュニティや歴史、自然といったより大きな存在と一体になる。世代や時代を超えた何かが御柱祭にはありました。

取材・撮影・執筆:北埜航太

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