地方移住

念願の店[十月十日]宮木にオープンしました 金井 歩実さん

川島区にある古着屋さん「O to &」は皆さんおなじみのお店。金井歩実さんが開いた宮木の「十月十日」はまた一味違うテイストのお店です。念願だったお店を10月10日にオープンしました。インタビュアーの2人は共に古着好き。JR飯田線の電車の音を聴きながら、興味津々の古着談義から川島区の魅力へと…。

のどかで人々も穏やか、いつの間にかたどり着いた川島。

金井さんはどちらのご出身ですか。

長野市篠ノ井です。地元の大学を2つ出た後、南箕輪村の企業に3年半就職しましたが、次第に虚無感を感じ始めまして。毎日毎日、自分が自分ではない感覚になり、退職しイギリスへ行きました。帰国してから伊那方面で古民家を探していたところ、友人から「O to &」を紹介され、川島区に住みはじめました。

イギリスへはどんな目的で行かれたのでしょう。

昔から憧れていた国がイギリスでした。ピーターパンも子供の頃から大好きで。私自身、特別古着に興味があったわけでもなく、音楽にも興味があったわけでもありません。ただただイギリスに行きたかった。

ご両親は心配されませんでしたか。

安定した人生こそ正しいと子供の頃から育てられましたので、最初は心配だったと思います。でも私がいきいき過ごしている様子をSNSで見て今では安心していますね。親が子離れしたと言いますか。妹がいますが、両親は私で免疫ができたので、彼女もハードルが低くなってありがたいと言っています(笑)

源上の古民家で真っ暗闇を体験しています。

川島区源上にもお住まいがあるとお聞きしました。

そうなんです。「O to &」にはアーティスト、ミュージシャンなど不特定多数のお客さまが来ます。古着屋というジャンルでは収まりきれない異空間なんです。一人の時間も持ちたいと思うようになり、源上との二重生活を始めました。夜になると当たりは真っ暗。エントランスから家まで10m距離があって、その真っ暗闇を毎晩感じながら歩くのです。普段の生活で真っ暗闇や音がない状態を体感する事は滅多にないですよね。

怖くはないですか。

最初は怖かったですが、慣れれば平気です。何か物音がすると思ったら翌朝、猪が土を掘り起こした跡を発見したり、カモシカを見かけたり…。ここ源上は、生きている実感を感じられるレアな場所。昔の人はこんな思いをしながら洞窟で生活していたのかなと。火だけが頼りの命がけの生活、普段いかに守られて生きているのかがわかります。

十月十日。人は朝になると生まれ変わる。日々新しい自分。

十月十日とはどんな思いが込められていますか。

十月十日は赤ちゃんが産まれるまでの日数です。この漢字を組み換えると「朝」という漢字になります。毎朝新しい自分に生まれ変わるように新鮮な気持ちで生きていきたいという思いがあります。たまにマタニティウェアのお店と間違えて来た方もいらっしゃって。(笑)

川島区のO to &とまたお店の雰囲気が違いますね。

やはりイギリス、ヨーロッパの古着がほとんどですから。「O to &」はメキシコ、モロッコ、タイなどに買い付けが多かったので、国ごとの歴史も異なりますね。古着だけでなくアートや文学などの文化の発信地になればうれしいです。

店の窓からJR飯田線が見える

看板もラックも素敵です。

アライ鉄工作所のアライさんに作っていただきました。什器もです。イメージ通りに仕上がって感謝しています。Instagram→@araiironworks

おしゃれな十月十日の看板

話は変わりますが、歩実さんはポールダンサーでいらっしゃるんですね。

イギリスに留学していた時のホストファミリーが、ポールダンスの講師をしていて誘われて習い始めたのがきっかけです。今はしていませんが講師もしていました。イギリスと日本ではポールダンスのニュアンスは多少違いますね。艶っぽい踊りというイメージされる方が多いと思いますがイギリスではエクササイズです。どちらかというとスポーツですね。

古着を通じて様々な方との出逢いがある

どんなお客さまが来店されますか。

年齢も様々、性別も様々。先日も全身ユーロヴィンテージ仕様に身を包んだ初老のお客さまがいらっしゃました。今はネットで検索すれば行く事ができるので色々な場所から来ていただいています。

古着だけでなく店内はアート作品書籍など様々なアイテムが

古着にはその人の人生が染み付いているといいます。

1着1着に袖を通すと、この人はどんな顔をしていたのか、どんな家族に囲まれて生きていたのかと思いを巡らさずには居れません。海を越えた国からご縁があって日本にやってきた古着たち。またご縁があって、新しく袖を通す人がいる…。感慨深いです。

最初に住んだ場所が川島区で、本当に良かったと思っています。

これは、ポートランド出身の知人の話ですが「辰野町はアメリカ・オレゴン州ポートランドに似ているね」と言われた事があります。ポートランドはアメリカでも上位に上がる「住みたい街」として「物質的豊かさ」よりも「精神的充足感」を重視し様々な街づくりに挑戦している街です。小さな街ですが世界中から毎週数百人という移住者がやってくるそうです。地元の農地で作られる新鮮な野菜や果物を安価に手に入れることができるのは、辰野町も同じ。ポートランドは成功をおさめましたが、出来上がってしまったために、まとまってしまった残念さもあります。辰野町は発展途上、これからが面白いのだと思います。知人も言っていましたが、いい意味でポートランドのようにならないで欲しい。仲間とつくりあげていく過程を楽しみたいですね。

そうそう。来年4月にお隣りにピザ屋ができますよ。1ピースから購入できるんです。ピザを片手にまち歩きもいいですね。私も楽しみです。

たまたま川島区に移住しましたが、最初はそのコミュニティに溶け込めるか不安がありました。でも皆さん仲良くしてくださりありがたいです。何と言っても国道から川島区に入った途端に空気が変わります。川島区は素晴らしい場所です。辰野町、なかでも川島区で生活できて、本当にありがたいと思います。

お話をお聞きして

自然体の生き方。歩実さんから伝わってきます。自分らしくありのままを受け入れながらも、感じた違和感ときちんと向き合う歩実さん。冒険したくてもできない若い年代の方、社会の同調圧力に耐えられない方が増えている現代。古着というジャンルを超えて、受け入れて寄り添う店「十月十日」。そこはまさに歩実さんそのものの空間。貴重なお話ありがとうございました。(インタビュー=伊藤 優 撮影・編集・デザイン=山崎里枝)

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