地域創生

「謎のフリーザ看板」を調べたら、 消防団は家でも職場でもない「第3の居場所」だった

辰野町川島の渡戸耕地から下飯沼沢に向かっていく途中、一際目立つ大看板が目に入ります。人気漫画ドラゴンボールのフリーザや、ルパン3世など、著者本人が描いたのではと思うほどリアルな描写と、そのインパクトに「あれはなに?」と気になっている人も多いのではないでしょうか。よくよく話を聞くと川島区の消防団メンバーが手がけているとのこと。なぜあのフリーザなのか?しかも金色のフリーザなのか?そしてそもそも消防団はどんな役割を担っているのか?疑問だらけの僕は消防団の団長のもとへ取材に伺いました。

ーこんにちは。さっそくですが、あのインパクト満載のイラスト、なぜ作っているんですか? 川島に初めて来た5年前からずっと気になっていました(笑)

初めまして。川島区第二分団の分団長、飯澤貴行です。あのイラストですよね(笑)。あれは、秋の火災予防週間に合わせて作っている消防団の広報看板なんです。でも、普通に作っても誰も見てくれない。そこで、とにかくインパクトを追求して作っています。

第29代分団長。 肩書きから、強面の方を想像していたのですが、安心感のある柔らかい人柄で取材は和やかムードで。

ーどうしてフリーザなんですか?

なぜフリーザなの?今時だったら鬼滅の刃じゃないの?と思いますよね。僕たちの看板にはいくつかポリシーがあって。「流行りに流されない」、「親にも子供世代にもインパクトがあるもの」、「あれ何?という引っかかりを感じてもらう」といったことを大事にしているんです。なので、ドラゴンボール主人公の悟空でもなく、フリーザにして、さらに金色にイメージチェンジしました。川島に観光に来てくれた人がわざわざTwitterで紹介してくれたりとか、反響はかなりありますね。

さかいはしを渡ると見えてくるインパクト満載の看板。川島の自然と真反対の強い彩色が印象的です。

ーなるほど。僕はまさにその戦略にハマってしまいました(笑)。でも、そこまでしてPRするのはなぜですか?作るのも結構大変ですよね。

そうですね。普段の消防訓練も忙しいのですが、その合間を縫って10日間くらいの時間をかけて作っています。それでもやっているのは、消防団のことが理解されづらいので、もっと知ってほしいということが大きいですね。

ー10日間も!たしかに僕、あまり消防団のこと、よく知らないのです…。

そうですよね。消防団って、結構厳しそうとか、仕事が大変とか、あまり楽しい組織には見られていないんです。どちらかというとネガティブに見られてしまうことも多い。だからこそ看板作りみたいに楽しめる業務も増やすように工夫してます。もちろん火事や災害への対処を役割としているので、緊急事態にいつでも対応できるためにある程度の訓練は必要です。そこは真面目にやります。でも、訓練以外は“部活”のような雰囲気もあるんですよね。練習が終わったらみんなでご飯食べにいったり、雑談したり。消防団も同じなんです。仕事仲間よりも利害関係がなくて、家族ともまた違う関係で。消防団って、プライベートではないし、仕事でもない。仕事よりも堅苦しくなく、好きなことをできる自由さもあります。

屯所には歴代の消防団のメンバー写真が。戦後から続くという歴史の重みを感じさせます。

ーある意味サードプレイス(第3)のような場なんですね。

そうそう。社会人になると家庭でも仕事でもない、サードプレイス的な場所がなくなっちゃうので、消防団のコミュニティは貴重ですね。それに横のつながり、縦のつながりもできる。先輩後輩関係なく、いろんな世代の人たちと仲良くなれるので、地域に馴染むのにすごく良いコミュニティだったりもします。消防団に入っていたから小野の人とも仲良くなれたし。あと、町全体のパトロールも行うんですが、いろんなエリアをまわるので、結構地理にも詳しくなります。町のことを知るには実は消防団が1番良いかもしれません。なので、イメージとしては「町の安全に貢献する部活」みたいな感じでしょうか。

屯所の横にある火の見櫓。日々川島の安全を見守っています。

ー部活的なコミュニティってなんだか懐かしいです。そう聞くとやりがいがありそうだなあと思います。

そう言ってくれると嬉しいです。時代の変化もあって、昔みたいに組織や全体が優先されるよりも、核家族化や働く場所が固定されないリモートワークも増えているように、個人の自由が大事にされるようになってきた。なので、戦後からある消防団という組織も変わっていかなきゃいけないとは思います。昔は飲み会とかも結構激しかったりしたみたいで、奥さんや女性受けは良くなかったそうです(笑)。でも、今は若い子だとお酒を飲まない子もいるので、ソフトドリンクも全然OKだし、そういうところから現代の価値観に変えていきたいと思って、工夫しています。出初式という年初の消防団のイベントも、今年はコロナもあってYouTubeのオンライン配信に切り替えたりもしました。

ー消防団の人たちも変わっていこうと努力されているんですね。

はい。時代が変わっても消防団はやっぱり必要だと思うんです。昨年も落雷で門前の方で火災があったり、下飯沼沢でも火事があったり。ここは町中からも少し離れているし、そういう危機に備えておく人が地域にも必要だと思います。消防団は、消防士が地域に駆けつけるまで消火活動に取り組んだり、後方支援をしたり、より地域に根ざして活動できるので。ただ、そういう危機って年に何回も起こらないから、みなさんが消防団の活躍を目にする機会も多くなくて。消防団が活躍しなくて済む方が地域にとっていいからこそ、消防団の存在価値が理解されづらいことの歯痒さもありますね。だからこそ、さっきのフリーザの看板のように、火事が起きた時だけでなく、火災予防の活動にも力を入れています。

ー最後に何か伝えたいことはありますか?

やっぱり若い仲間は欲しいですね。そのために、地域に人が増えればいいなと思いますね。人が減れば消防団も活動が難しくなってしまうし。少しでも面白そうと思ってくれる人がいたら問い合わせをしてもらえたら嬉しいです。 (文=北埜航太)

 

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